狩猟→農耕→科学革命の流れで社畜は生まれた。サピエンス全史を読んで
本を購入するとなりますとたとえランキング的なもので上位にいたとしても、やはり自分の興味の範囲に近いものではないと手を出しませんし、引っ越してから図書館の質が上がったため借りて済ませるというのも選択肢の一つになります。
ですので、購入の決断は図書館の予約の人数とかも鑑みることになります。
そんな中、評判が高くて私の興味対象である歴史が絡んでいるサピエンス全史は、上下巻あるとはいえ購入して読み終えました。内容も含めてボリューミーでしたね。
上下巻にわたる解説は主に「実際には存在しないが広く信じられる空想、想像上の産物」である空想的虚構をベースとした3つの革命(認知革命、農業革命、科学革命)により、現在の発展へと至った過程を分析しています。
空想的虚構は3つの革命それぞれに対して、以下の対応です。
認知革命:言語体系、自然崇拝
農業革命:民族神話、宗教、書記体系
科学革命:資本主義経済、民主主義政治
上下巻の構成の内農業革命が上巻の最後と下巻の最初にまたがっています。
この3つの革命のうちとくに農業革命と科学革命は資本主義や現在の情勢の根幹となるものだけに、読んでいて引き込まれましたね。
認知革命
サピエンスだけが、多数の見知らぬものどうしが協力し、社会性や協調性を身につけたため、東アフリカあたりにいたサピエンスは世界各地に移動してネアンデルタール人(50人程度しか集団が作れない)を滅ぼしたと。
そして、サピエンスだけが、約7万年前の「認知革命」を経て、「虚構=架空のものごと」について語れるようになったと書かれてました。
結局虚構は、伝説や神話や宗教が比較的イメージしやすいですが、それだけではありません。国家や貨幣、司法制度や有限会社といった制度も虚構であり、大勢がそれを信じることで成り立っているという点で、変わりがないんですね。
今まさにバブル状態だろと過半数が思っているビットコインなんかも同様です。
結局、株価にしろ仮想通貨にしろ大勢が信じられなくなると虚構は失墜するわけで、オランダのチューリップバブルや日本のバブルもその例と言えます。つまるところ認知革命の虚構は全て今につながっているなと。
農業革命 現代の社畜に至る根源
2つ目の農業革命ですが、小麦をきっかけにサピエンスは狩猟採集生活から定住生活へ移行し、小集団が統合していき、やがて貨幣・帝国・宗教という秩序が形成されていくわけです。
農業革命も大きな出来事だったわけですが、この本の指摘するところは一線を画しています。
平均的な農耕民は従来の狩猟採集の時よりも、働いている時間が長くなり、さらに得られる食べ物の量も減りました。農業革命は史上最大の詐欺だったのです。
でも何故農耕民はそれをつづけたのか?
何故かというと一生懸命に働けば、安定した食料が得られるという虚構を信じていたからです。
やがて本質的に平等であると信じれば、安定し、繁栄する社会を築けるという共同的主観につながり、共同的主観が発展するとさらには帝国や貨幣、宗教が広がっていきます。
これが近世に至る過程であるわけですが、この過程を見ると資本主義が広がった世界における現代の労働者に置き換えるとそのままじゃないかと思えてきます。
過程だけを切り取るとホモ・サピエンスがそれらの植物種を栽培化したのではなく、小麦や稲に家畜化されてるんですよね。そして現代はお金や企業に家畜化されているんですよね。
この章を呼んでいるともはやサピエンスのDNAに社畜的なものがあり、それが現代まで脈々と受け継がれているようにしか思えませんでした。ある意味読んでいて衝撃とこのような視点から切り込める作者の洞察力に畏怖を覚えます。
帝国と宗教に関する考えも一般的に反権力的なものと隠しているだけに興味深かったですね。仏教圏の人間ですから、著者のユヴァル・ノア・ハラリの仏教への深い理解は特筆すべきものがあるなと思いました。
科学革命
1500年からの500年間で、人口は14倍、生産量は240倍、エネルギー消費量は115倍になりました。この間、科学と帝国主義と資本主義が、歴史を動かす最大のエンジンでした。
著者の定義によると、新たな大陸を認識できなかったコロンブスはまだ近代人とは言えず、「わからない」と言う勇気があったアメリゴ・ヴェスプッチが近代人の第一号だそうです。
科学を武器に用いる→国が強くなる→帝国がさらに大きくなる。
このサイクルで発展してきたわけです。そして、知識の追求にはお金がかかるため、イデオロギーと政治と経済の力に左右されるわけです。
そして現代では、科学によって、安定した経済成長が見込めるようになると、国同士は戦争という手段をとらなくなりました。なぜなら戦争をすることは国として採算が合わないからです。現在では人類史上最も平和な時間が過ぎていると言及しています。
科学革命でイノベーションを起こした理由として考える3つの項目は以下にまとめられるわけですが、
- 集団的無知を進んで認める
- 観察と数学を中心に置く
- 獲得した知識を新しい力に結びつける
著者はこの「私たちには分からないことがある」と認める姿勢を、「植民地支配の意欲だけではなく、科学的な物の見方の発達を体現するもの」としています。
これって結局現代のイノベーションに関しても同様のことが言えるのではないでしょうか?
AIが進化するとこの3つの繰り返しで、技術革新も加速していくでしょう。
何故中国やインドやイスラム圏は取り残されたのか?
科学革命を推し進めたのはヨーロッパだったわけですが、1500年以前は反映していたアジアやイスラム圏は何故取り残されたのか?一番興味のある項目ではあります。
アジアが技術的に遅れていたわけではなく、西洋のような「探検と征服」の精神構造と、それを支える価値観や神話、司法組織、社会政治体制がなかったと著者は書いています。
実際、1400年代前半に明の鄭和はアフリカまで航海していたわけですし。ただ、鄭和の死後閉鎖的になってしまうんですね。仮に航海を続けて南アフリカに到達していれば歴史は変わっていたかもしれません。
また、中国は平坦で海岸線も単純なため、古来から統一帝国ができやすかったのですが、一方で皇帝の意思決定ですべてが決まりました。これは大帝国をまとめるにはよいのですが、イノベーションは起こりにくい。
一方、地形に起伏があり海岸線が複雑なヨーロッパは統一された試しがない。そのため、イノベーションが起こる余地がある。
コロンブスはいろんな国で何度も断られた後、やっと資金提供者が見つかり、結果航海に出ることができました。国家間の競争があるのも大きいんじゃないかという印象を受けました。
ただ、この考えを読んでおりますと、ヨーロッパは統一されたためしがないわけですが、現在はEUやユーロといった形で統合が進んでいます。
イギリスのEU離脱の問題なんかを見ておりますと、EUやユーロの歪み的なものは顕在化していますし、今後、成長が止まる可能性があるのではと感じました。
なぜ近代以前に科学革命は起きなかったのか?
地域だけではなく近代以前になぜ科学革命が起きなかったのかというのも気になりました。
近代以前の問題は、誰も信用を考えつかなかったとか、その使い方がわからなかったとかいうことではなく、信用供与を行なおうとしなかった点にあると。
なぜなら昔の人々は自分たちの時代よりも過去のほうが良かったと思い、将来は今よりも悪くなるか、せいぜい今と同程度だろうと考えていたからだと。
つまるところ以下のスパイラルに陥っていたわけですね。
①将来を信頼しない
↓
②信用がほとんど発生しない
↓
③経済成長が遅い(①に戻る)
この項目にまとめた時に思ったのは、ポル・ポトの原始共産主義的なみんなで平等に衰退しよう的な意見を言う人間が存在する
日本はこのスパイラルに陥っていないかということです。
仕事における個人の業務でも同様ですが、集団的無知を進んで認め、観察と数学を中心に置き、獲得した知識を新しい力に結びつけることは必要だと考えます。
ニュータイプ的なネオ・サピエンスが現れる?
サピエンスは自然選択の法則を打ち破り、生物学的に定められた限界を突破し始めているため、サピエンスはいずれシンギュラリティ(特異点)に至ると予測しています。
すると、テクノロジーや組織の変化だけでなく、人間の意識とアイデンティティの根本的な変化も起きるわけです。
著者はサピエンスがふたたび唯一の人類種ではなくなる時代の幕開けになる可能性を示唆しています。
人類が、個体でなく、全体で想像もつかない世界に到達したように、人類全体の思考より、認知能力が変化、進化することで漸く次の世界が見えてくるのかもしれません。
歴史書の多くは、国家や権力にだけ注目してきましたが、この本は個人の幸せにも言及していて、歴史書とは一線を画しつつ、上下巻のつながりも見事で、各所で絶賛される理由がわかる気がしました。
資本主義経済の源流を学ぶ意味でもお勧めの本です。


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