モルガン・スタンレーの新興市場部門・部門長が予測するこれから成長する国とは?シャルマの未来予測を読んで
投資をする上で、これから成長する国がわかればいいなと思うことはあるものですが、個人的な予想を立ててもなかなかうまくいかないもの。
成長しそうな国に投資をするとなると実際に現地を体験した人のアドバンテージは結構あるかと考えます。実際に訪れてみないとその国の国民性や文化といったものもわかりませんし。
海外旅行に行くような人間ではないので、どうしてもデータから見るという方向に行きます。
リーマンショックから10年経って、新興国株式はアジアの独断場に - 関東在住福岡人のまったり投資日記
リーマンショックから10年ということで、iシェアーズ MSCI ACWI ETF(ティッカー:ACWI)を使って10年でどれくらい景色が変わったのかを調べましたが、アメリカと中国が伸びてそれ以外の日本、イギリス、ドイツなどの先進国のウェイトが低くなり、中国以外の新興国も横倍程度という結果でした。...
BRICs、VISTAの台頭を予見した人で、2015年にはブルームバーグより世界で最も影響力のある人物50人の1人にも選ばれています。
実はルチル・シャルマの本は昨年、この本の前作のブレイクアウト・ネーションズという本を薦められたのですが、いろいろと他の本も読んだりしていたら、データがアップデートされた本が今年出たのでそちらを優先しました。
ルチル・シャルマ 早川書房 2015-04-22
550pを超える超大作で読むのには一苦労という感じですけど、とくに新興国へ投資をする人にとっては必読の書だと思います。個人的にこんな国まで行ったの?というレベルで現地の視察に行ってるので、内容は深いです。
本の内容で印象に残った点をまとめますと以下の通りでしょうか?
未来予測の格付け方法の10の評価基準
未来予測の格付け方法として10の評価基準を示していて、長期間にわたる予測は完全な予測などありえないため、客観性で行わないで予測できる範囲はせいぜい5~10年程度ということで、5~10年の今後予測を行っています。
ちなみに成長率に関しては新興国5%、中低クラスが3~4%、中間クラスが数%、先進国は1.5%で優秀だそうです。
予測の10の評価基準をまとめると以下の通りです。
- 人口構成(生産年齢人口の増加率が2%以上)
- 政治サイクル(改革者が長期政権で堕落する)
- 格差(不平等の程度が高すぎても低すぎてもダメ。日本は億万長者の割合が低すぎて富の創造で機能不全)
- 政府介入(介入は少ない方がよく、対GDP比の政治支出の目的が生産的か、民間企業に成長機会を与えてるか)
- 地の利(第1都市と第2都市の人口の偏在が3分の1以内、100万都市が増えているか)
- 産業政策(投資シェアがGDP比で25~35%、GDP比が35%を超えると副作用、製造業の発展は国家に安定をもたらす、不動産投資がGDP比の5%を超えるとバブル崩壊)
- インフレ(住宅価格の上昇率が経済成長をうわまり続けていないか?低インフレが経済成長の条件)
- 通貨(経済収支の赤字の対GDP比が5年連続3%以上なら要警戒)
- 過剰債務(債務の水準ではなく伸び率が重要、民間債務の対GDP比増加幅が40%を超えると5年以内に金融危機)
- メディア(特集されたときがピーク、見放されたときがチャンス)
人口の偏在の3分の1以内や、産業政策の対GDP比の投資シェア、不動産投資の比率は非常に興味深い数値だなと思いました。
あとは、政府主導で政策を行う場合も、民間企業の成長機会を与えて生産的な支援にしなければならないというのは日本に必要なことなんじゃないかと。
将来の成長力の格付け
では、上記10項目の評価基準で判定すると以下の通りです。
優秀:アメリカ、メキシコ、ペルー、アルゼンチン、ドイツ、チェコ、ポーランド、ルーマニア、インド、パキスタン、バングラデシュ、インドネシア、フィリピン、ベトナム
平均:日本、韓国、台湾、ケニア、コロンビア、ハンガリー、イタリア、スペイン、イギリス
劣等:カナダ、ブラジル、チリ、ナイジェリア、南アフリカ、サウジアラビア、トルコ、ロシア、タイ、オーストラリア、マレーシア、中国、フランス
比較的東南アジアの評価は高いのですが、バンコクに人口が集中していて、過剰債務のタイと産油国のマレーシアは評価が低いものの、それ以外のインドネシア、フィリピン、ベトナムは地の利的にも評価が高いのは納得でした。
あと、東アジアでは日本はアベノミクスを評価して劣等から平均に格上げ、逆に台湾と韓国は格下げで平均だったりします。
なお南アジアのインド、バングラデシュ、パキスタンは熱そうな地域かなと。アフリカは地理的なスイートスポットから、東部は優秀で西武は劣等という評価でした。
本を読んでいると「TPPなどの貿易協定」「移民の受け入れ」の2点は推進派の意見ですので、そのバイアスは入っていると思いました。
あと個人的におもしろいと思ってる東ヨーロッパの国の評価が高いのは同意です。
2016年3月時点の格付けなので注意が必要
ちなみにこの評価は2016年3月時点ですので2年経過していることは留意しておくべきでしょう。
トランプ政権とイギリスのEU離脱は反映されていません(イギリスは離脱になったら大変とは書いてありましたが)。オバマ政権時のTPP制定を評価していましたが、これが反故されたのでアメリカの評価は下がっているでしょう。
あと、難民問題が複雑化してメルケル政権の続投の確率が低くなるのはいいことだと書いてましたが、すったもんだで続投という結果になりました。
プーチンとエルドアンを改革者→長期政権で独裁化→経済悪化のモデル的に取り上げていますので、ドイツもよくない方向に行ってる印象です。
一方、EUと貿易協定結んだりしている日本は相対的に評価が高まってる可能性があるでしょうね。長期政権ではありますが、3期務めても10年超えませんし。
2016年3月時点では、公的債務が増えていない、TPP参加、豊富な預金量、女性の社会進出などが評価されてましたが、悪い点も書かれていて中立評価でしたけど。
BRICsの評価は低く、インドに関しても厳しめの印象
本の中ではBRICsはインドを除いてボロクソに書かれていて、とくに中国、ロシアはボロクソに書いてます。
気になったのはインド。個人的にも伸びると思っていて書籍を読んでおります。
インドシフトを読んで見えてくるインドの底知れないポテンシャル - 関東在住福岡人のまったり投資日記
BRICsというフレーズはあまり使われることはなくなりましたが、この中で投資をするとすれば?と聞かれると個人的にはインドと答えます。人...
- モディ政権の改革は慎重
- インフレ率が二桁から5%に低下
- 自治州の力が強く、成長率5-6%を維持
- 南アジアの成長率が高い恩恵を受けている
シャルマ自身がインド出身ですので、なぜ前政権がダメだったかやインド社会の構造も詳細に書かれていて、マイナス点は目を背けないようにしたいですね。
とはいえ本の中では、永遠に発展する国はなく循環があると書いてありますので、個人的にはいまメディアで騒がれていない国がどうなっているかを調べたくなりました。
新興国だけでなく先進国でこれから成長する国を見極める指標を知る上でもオススメしたい本です。


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