[書評]父が娘に語る 美しく、深く、壮大で、とんでもなくわかりやすい経済の話
図書館とのハイブリッドで本を読んでいますが、1か月にそれなりに本は買っています。
もちろんこれはと思う投資関連の本が最優先ですが、Amazonあたりの経済関連の本で上位に来ているものは身銭を切ることが多いです。例えばファクトフルネスとか。
そんな中、気になっていた「父が娘に語る 美しく、深く、壮大で、とんでもなくわかりやすい経済の話」を読みました。
父が娘に語る 美しく、深く、壮大で、とんでもなくわかりやすい経済の話。
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ヤニス・バルファキス/関 美和 ダイヤモンド社 2019年03月08日
著者のヤニス・バルファキスはオーストラリア出身ですが、アテネ大学の経済学者をやってた経験から、2015年頃のギリシャ経済危機のときに財務大臣を務めていました。
ギリシャショックのときは投資をしていて、株価への影響を与えてましたので何言ってんだ?感がありましたけど、バルファキスの意見は一理あるものですし、EU側の姿勢も問題だったのかと思えるものでした。
1万年分の経済の歴史を網羅していて、且つ仮想通貨などにも触れているので、本の中でも書かれてましたが、経済学の銃・病原菌・鉄という感じで、将来について書かれてるのでサピエンス全史にも近い印象です。
経済学というとっつきにくい学問にサピエンス全史や銃・病原菌・鉄の要素を加えて、父が娘にわかりやすく経済の話をする体裁で書かれているためわかりやすいので売れてるというのはあるでしょうね。
個人的に印象に残った点をまとめますと以下の3点です。
個人的に印象に残った記載
印象に残った文言をメモ代わりに書くと以下の7点ですね。
- 利益の追及が人間を動かす大きな動機になったのは、借金に新たな役割ができたことと深いつながりがある
- 市場社会にとっての借金は、キリスト教にとっての地獄と同じだ。近寄りたくはないけれど、欠かせないものだ
- 信仰や教義を脇に置き、借金に利子を課すことを法的に禁止しなくなってはじめて、産業革命は花開いた
- 現代の経済は、生き物の生態系と同じで、循環しなければ崩壊してしまう
- ある時点で、社会全体が借金漬けになり、経済の成長がそれに追いつかず、利益を出しても返済しきれない状況が訪れる。ここでみんなが思い描いていた未来はやってこないことに社会が気づく。未来から引っ張って借りてきた莫大な価値が実現できないとわかったとき、経済は破綻する
- 公的債務は良くも悪くも、市場社会という機会を動かしている『機械の中の幽霊』だということだ
- 銀行はただの増幅器でしかない。市場社会が不安定である根本原因は別にある。原因のもとを深く探っていくと、ふたつの特殊な『商品』の奇妙な性質に行き着く。そのふたつとは、労働力とマネーだ
資本主義が発展してきた過程と、現状の世界経済をよく表していると思います。
経済学者の中に市場に介入するなを強く言う人がいますけど、ギリシャの財務大臣の経験を見ると言葉に重みがあります。
とくにこの2点でなぜ2015年頃ギリシャがあれほどEUの支援策に反発したかがわかります。
- こんな苦境に陥ったときに私たち市民を救済してくれるのは誰だろう?国家しかない。返済できない債務は国家に帳消しにしてもらうしかない。国家が介入してくれてはじめて、債務の霧が晴れ、回復への道を歩むことができる
- 国家を民間企業の敵と批判する人たちは、国家が身の程をわきまえず収入以上に支出すると大惨事が起きるという。だが、そんなのはたわごとだ
個人的にもっとも印象に残ったのはいまの経済は、人間の欲する目標を手に入れるのに適していないどころか、そもそも手の届かない目標を設定したシステムなのだ。という点。
これはGAFAあたりの世界的大企業だと目標に届くシステムだけど、それ以外の企業が二極化で苦しんでいく現状をよく表してると思いました。
収容所のタバコも通貨だった
経済学のニュースや文章は読みにくいという人もいるかと思いますが、ものすごくわかりやすく書かれてると思います。
とくに7章の通貨のデフレの例えはわかりやすかったですね。
第二次世界大戦時のドイツの捕虜収容所で、物資の交換の中からタバコが通過的な役割を持つようになり、やがて連合国側がドイツに攻め入って爆撃が始まると「デフレ」が起こり、戦争が終了すると収容所内の経済が集うが終了するという話です。
結局この例えは仮想通貨にもつながっていて、仮想通貨を理解していない人が大損をする前に、貨幣に対する知識や信用がどういうものなのかを理解する上でもいいと考えます。
機械化が生む矛盾
最後はサピエンス全史のように機械化に関する記載をピックアップします。
ホモデウスのような続編もありえそうな印象。
機械化に関しての格差の広がりは以下の流れで簡易的に説明されています。
①機械化により、労働者の賃金は下がる。
②賃金が下がると、事業家は不況を予測して、雇用を減らす。
③労働者は賃金を下げてでも働こうとする。
④消費が減るため、企業は売り上げが減り、儲からなくなる。
⑤政府が金利引き下げなどの手を打っても、人々はますます不況になることを恐れる。
⑥持つ者と持たざる者との格差は広がる。
さらにマトリックスやブレードランナーの内容を例えながら、機械と人間との境界、違いから経済を説明しているのは独特でしたね。
ちなみにブレードランナーの設定は2019年。バッグトゥザフューチャーやマクロス、エヴァなどと同様にその時代が来ちゃいました。
バルファキス氏は民主主義は腐敗しやすいが、愚かなウイルスのように行動しないためのただ一つの方策で、資本主義とは共存しなければ何もかもが意味をなさなくなってしまうと説いていて、民主主義や資本主義を否定していません。
対策として①すべての人間がロボットを部分所有することで、テクノロジーを民主化、②格差を是正のために一部の富を得た人間が利益を分配すること。を説いています。
政策としては、ヨーロッパの財政政策に積極的なリベラルと社会主義的発想が合わさってるような印象ですが、やや都合のよいことが多く非現実的な印象を持つのがネックに感じました。
バーニー・サンダースと共同で組織を立ち上げているそうですが、実現性という意味で組む相手がよろしくないんじゃないでしょうか。
ただし、この本一冊は経済の1万年の歴史を網羅しつつ、現状の資本主義や民主主義、機械化の問題点をあぶりだしていて、経済学の基本を学んだり、現状の課題を把握する上でオススメしたい一冊だと考えます。
父が娘に語る 美しく、深く、壮大で、とんでもなくわかりやすい経済の話。
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ヤニス・バルファキス/関 美和 ダイヤモンド社 2019年03月08日


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