「追われる国」の経済学から見えてくる、先進国で金融緩和が効かない理由
参議院選挙の投票用紙が届いて、各党の政策とかもポスターに載ってたりしますけど、参議院選挙だからなのか知りませんがかなり非現実的なもの多いような印象があるんですよね。
twitterで政治的発言が溢れるような状況ってどうかと思いますし、非現実的な政策を礼讃して、批判した他者を攻撃しまくる様をみてると、カルト宗教化するんじゃないかと怖さを覚えます。
そういう現象が現れてるのも先進国の長期停滞、従来の経済学の理論が通用しないことが原因の1つと言えるでしょう。
長期停滞の原因と対策の提言が書かれた「追われる国」の経済学を読んだのですが、なぜ先進国が長期停滞に陥ってるのか腑に落ちる内容でしたので今日は紹介したいと思います。
著者のリチャード・クー氏は野村総合研究所 主席研究員で、神戸市生まれ経済審議会専門委員やアメリカの機関のアドバイザーなどを歴任しています。
個人的に全面賛成というわけではありませんが、積極的財政政策の中にはちょっと無理がありすぎる主張の人も多い中で、バランスシート不況論は説得力があると思いました。
600ページを超える大作ではありますが、丁寧にわかりやすく解説していてオススメしたい本です。
個人的に今後の投資にも使えそうだと思いましたので、印象に残った点を整理してみました。
経済発展の三段階
日本も、米国も、ユーロ圏も金融緩和を行っているが、マネーサプライは連動せず、民間融資もまた違った動きをするため金融政策は効かない。
その理由はバランスシート不況(「貸し手は居ても借り手が居ない」「借り手も貸し手も居ない」状況)であり、追われる国の事情であるというのがクー氏の主張です。
追われる国の定義をすると経済発展の三段階があって、日本、米国、ユーロ圏は追われる国になってしまってるんですね。
- 技術革新と製造業の発展、農村から都市部への労働力の移動が起こる勃興期(ルイスの転換点以前)
- 農村から都市への労働力移動が底をついて賃金が上がり始め、内需拡大と格差縮小が起こる黄金期
- 新興国との競合によりある賃金水準以上では企業が海外移転を選択するため、労働者の平均実質賃金が停滞し、一部の高スキル労働者との格差が拡大する。
米国と西欧は1970年代、日本は1965~1990年代初めに黄金期を過ぎていまの賃金の停滞状況に陥ってると。
中国、韓国、台湾などが追う国になったわけですが、工場を移転が進むとこれらの国々もまた同様の状況になりかねないとのこと。
そして、黄金期の場合はインフレが問題で、逆に3段階目の追われる国になるとインフレが沈静化する。
金融緩和などの金融政策は黄金期では有効であるが、追われる国の段階では企業が国内では貯蓄超過になるので、金利を下げても金融政策は効果を上げなくなる。そこで景気押し上げ、調整は財政政策を使うしかないという主張です。
なぜアメリカは欧州や日本と違うのか?
バブル崩壊後の日本やリーマンショック後の欧州は金融緩和の効果が表れていないのに対して、米国はバランスシート不況にあることを理解していたためだとクー氏は主張しています。
バーナンキ元議長、イエレン前議長は財政再建に進むとデフレに陥るため、政府が最後の借り手として出動する必要を理解していたと。
この効果でリーマンショック以前と比べると家計の金融負債・金融資産のグラフでは、借入量は少ないが、借り入れの回復が見られていて米国経済が一番ましな状況にあるとのこと。
逆に欧州圏はユーロで統一通貨となっているため、想像以上に日本よりも厳しい状況にあるという印象を持ちました。
各国の家計の金融負債・金融資産については、時間があるときに調べてみようと思います。
バランスシート不況に対する対策
クー氏のバランスシート不況の対策として以下を提案していました。
- 自己ファイナンスが可能な財政刺激策を発動
- 減税や規制緩和
- 最先端技術の開発のために財政資金を振り向ける
- 有望なインフラ・プロジェクトへの公共事業
- 貿易不均衡を是正する機能が不しなわれた状況下では、為替レートや資本移動を是正する手段を持つ必要がある
追われる国へと状況が変わったのだから、官僚やエコノミストも旧来の経済政策の考えは改めるべきというのはその通りだと思いました。
減税については日本における消費税はどうなのか?と思いました。相続税などに関しては言及がありましたけど。
ただ、個人的に消費税廃止論とかはさすがに現実的ではないと思うので、もう少しその点を知りたいなと思いました。
規制緩和や最先端技術への投資は必要だと思います。特区とかやたら一部マスコミが政治思想的な理由で叩いてますけど、最先端の環境を整えることは大事ですよ。
公共事業に関しては日本やアメリカでインフラの老朽化が問題になりつつあるので、それなりに有効ではないかと思います。近年の自然災害の多さを考えると整備は必要でしょう。
とはいえ旧来の公共事業的なものが今後有効なのかという視点も持つ必要があるかなと。例えばリニア建設を行うとしてそれがどの程度効果をあるのかも含めてみていく必要があるでしょう。
投資と国の金融政策は切っても切れない関係ですので、マクロ経済とかの面も含めて知識を高めてくれる良書だと思います。


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