投資素人の数学者達が見つけた投資の教訓は「市場や個人投資に影響を与える要素や変数は数多くある」
1988年以降、年間平均66%という驚異的なパフォーマンスを続けているルネサンス・テクノロジーズの全容に迫った「最も賢い億万長者」を先週紹介しました。
本の中では、「この株が上がるだろうかとか下がるだろうか説明できるような個別の賭けはしない。どの賭けも、ほかのすべての賭け、リスクプロファイル、そして近い将来または遠い将来に予想される行動に基づいて決まる。それは巨大で複雑な最適化計算であって、その前提となっているのは、未来を十分に正確に予測すれば、その予測に基づいて儲けることができるし、リスクやコスト、影響や市場構造を十分に理解すれば、徹底的にテコ入れができるという考え方だ」と言及しているように、数学者・科学者が結集して、アルゴリズム投資を確立したような印象を持ちましたね。
100回中50.75回しか当たらないが億万長者になれる?「最も賢い億万長者〈下〉」 - 関東在住福岡人のまったり投資日記
1988年以降、年間平均66%の収益率を上げるルネッサンス・テクノロジーズ。その創業者ジェームズ・シモンズの生い立ちとルネサンス・テクノロジーズの創業期を描いた「最も賢い億万長者〈上〉」を紹介しました。...
これだけ稼いでそうなるのかと思うのですが、「市場に何が起ころうが自分は困らないことはわかってるのに、ただ損をするのが嫌いなだけで、いつになったらこの苦しみが終わるのか心配になり始めた」そうです。
そして、家族の資産の運用している投資家に「空売りすべきだろうか?」と聞いて、落ち着くまで何もしない方がいいとアドバイスされた翌日が株価が安定したそうです。
従来の投資手法が通用しなくなっている中で、クオンツ投資をしていてもやはり感情や直感から逃れらないものだなと。
同時に今後クオンツ投資が更に広がった場合に市場はどうなるのかと思ったんですね。
従来の投資手法が通用しない時代の傾向
2010年代に入って従来の投資手法が通用しない時代になりつつある事例が本の中でも取り上げられていましたが、クオンツ投資の動向も含めて以下のような状況とのこと。
- 積極的に運用する従来型のファンドが、ライバルよりも有利な情報を活用できなくなっている。
- 規制強化によって市場の公平性が増している。
- 素早い行動を取る投資会社が優位に立っている(求人情報などのリアルタイム情報を自動的に探し出す等)
- 分析できるデータの種類が爆発的に増え続ける中で、ルネサンスのような投資会社の強みはまずばかりだろう。
- あらゆるデータがデジタル化され、ソーシャルメディアのインフルエンサーが奨める商品などを詳しく分析して、収益につながる相関性やパターンを検証している。
- 新薬が承認される可能性を予測するアルゴリズムも開発中。
- 機械学習エンジンに一連の数式を放り込むだけで何百万通りものシグナル候補を試せるようになっている。
機械の進化で従来の投資手法にとってはなかなか難しい状況になりつつあるのは間違いないかと。
そして、データが更に増えるとその中から相関性を見つけるっていうことがますます重視される時代になるのかなと思います。
これが複雑に絡む事象だと人間では関連付けるのも限界があるでしょうし。
クオンツ投資家に弱点はあるのか?
では、クオンツ投資家は無敵かというと弱点はあるわけで。
関係者の証言では以下が上がってました。
- ノイズの多いデータの中から除法を取りだして正確なシグナルを発見するのは容易なことではない。
- 機会にとって株式の銘柄選びは、適当な曲を選んだり顔を認識したり、さらには車を運転したりするよりも難しいと論じているクオンツもいる。
- ルネサンスなどのいくつかの例外を除けば、クオンツ企業は従来型の企業を上回っているとはいえない。
- 扱うデータが物理学など他の分野と違って絶えず変化していることと、株式などの投資商品の過去の価格データが比較的限られてる。
ちなみにコンピュータトレーディングに関しては訴追された人もいましたが、おおむね誇張されすぎてるとのこと。
金融危機が起こった場合、投資家だけでなくクオンツも過去の方法論と同じく取引を控える傾向で、加えてクオンツ投資家が支配的な立場を占めるにつれて市場は安定性を増してきている傾向もあるようです。
航空機など別の分野でもコンピュータの意思決定によって手違いがおおむね減少しているそうですが、ハッキングなどの影響は怖さがありますね。
市場や個人投資に影響を与える要素や変数は数多くある
ルネサンスの経験や成功から得られる教訓として以下の2点を著者のグレゴリー・ザッカーマンはあげています。
- 投資家達が将来も過去と似たような決定を下すと確信できるため、人間の行動が予測可能であることを再認識させられる。
- 市場や個人投資に影響を与える要素や変数は、ほとんどの人が気づいたり導いたりできるよりも数多くある。見過ごしている要素は何十もありそれらはいくつもの次元を持っている。
意外と見えてない要素や変数は想像以上にあり、それが解明されるとまた状況が変わるということもあるような印象を持ちました。
ちなみにルネサンスの取引のうち収益を上げているのは50%をわずかに上回る分のみで、要素や変数を解明しても、市場より高い利回りをめざすことがいかに困難かということもわかります。
ファンド運用にも関わったエルウィン・バーレカンプはメダリオンの運営に関わっていたときに以下の結論に至ったそうです。
「ほとんどの投資家は、自分はある投資商品を 十分に理解してその先行きを予測できるという見当違いの自信を抱くため、その値動きを説明するために持ち出してくる話は理にかなってすらないし、危険ですらある。」
「収益報告などの経済ニュースが必ず市場を動かすことは否定しない。問題は、あまりにも多くの投資家がその手のニュースに注目しすいていて、彼らの運用成績がほぼすべて平均のすぐそばに集まっていることだ」
結局人間は感情や直感から逃れられないわけですから、一つのニュースに必要以上に反応せず、驕らず、定量的に考えることを意識しておいた方がよいかなと思いました。
ともあれ「最も賢い億万長者」はクオンツ投資のファンドの話でありながら、投資に関して示唆する内容が詰まっている一冊ともいえるでしょう。


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