技術覇権の鍵を握る半導体を制するための世界の動きがわかる「2030 半導体の地政学 戦略物資を支配するのは誰か」
昨年だったのですが、日経で半導体に関する連載があり内容が面白かったので読んでました。
今年に入ってからも結構半導体が問題になって製造メーカーでも影響が出ていてまさに戦略的物資ともいえるようになってきているかなと。
そんな中、日経から「2030 半導体の地政学」という本が出ていたので読みました。
著者の太田泰彦氏は科学技術部、産業部、国際部などを歴任していて、日米の半導体の交渉の取材経験もあって読み応えのある内容でした。
個人的に印象に残った点をまとめますと以下ですね。
サイクルを抑えることができるようになればどうなるか?
個人的に印象に残った点をまとめると以下です。
- 21世紀のインフラである半導体は単なる工業製品ではなく、敵対する国を追い詰める武器として使われることもある。
- 半導体のサプライチェーンを自国内に保有することは、安全保障上の重要な意味がある
- アメリカは世界全体の6割近いシェアを誇る台湾最大のファウンドリーTSMCの製造拠点をアリゾナに誘致している。
- 半導体のボトルネックが半導体の製造装置のASML(オランダ)、ファウンドリのTSMC(台湾)、ファブレスのARM(イギリス)とこのまさに3すくみの状態と米中大国との関係が事態をややこしくする
- アメリカだけでなく、中国や欧州もそれぞれ戦略的に半導体への投資を加速しており、アメリカは約5兆7000億円相当、中国約10兆円以上、欧州約1兆9000億円と見られるが、一方で日本は数百億円単位の支援策が議論されているにすぎない。
- 日本でも次世代半導体技術研究の取り組みは始まっていて、東大と先述のTSMCが組み共同研究するほか、NTTが世界に先駆け手がける「光電融合素子」という電子データ処理と光通信を融合させる技術は、半導体の地政学の地図を塗り替える潜在力がある。
半導体のサプライチェーンは安全保障上の重要な意味があるというのはまさにその通りで、TPPやらQUADやらも絡んで複雑な情勢と、重要性がよく分かる内容になっていました。
とくに半導体のボトルネックが3すくみな感じになってるのも余計に複雑さが増しています。
そしてボトルナックになる部分の企業は最先端技術を渡したくないので、他国に工場を作るのも及び腰。
アメリカはその技術を国内に置きたいため、工場の誘致に使うお金も段違い。
ただ、それでもTSMCは技術流出を避けたいので全部を出しませんし、ARMの売却にイギリスがストップをかけた理由もよくわかる内容でした。
ARMを売却しようとしているソフトバンクはこんな貴重な企業を売るのがほんとにいい策なのかという気もしました。
そして、現状世界の潮流からも経済安保の観点からも国家が戦略を立てて大々的に民間を支援しない限りは成功の道はないといえるもの。
もちろん10年くらい前にちゃんと支援していればまた違ったのかもしれませんけど、ある程度お金を回さないと行けない産業ではないかという思いは強くなりました。
そのためにはサイクルを抑えることができるようにならないと、需要が落ちたときに影響大となるネックがあるのですけど、本の中ではAIなどの予測精度が上がればという話でした。
個人的にはこれだけ需要と戦略的な重要性が上がっている中では、サイクル関係なくなっていくのかもしれないとも思いました。
ともあれ半導体関連の動向がわかりやすくまとめられてオススメできる一冊だと思います。


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