資源戦争と地政学がよくわかる、ダニエル・ヤーギンの「新しい世界の資源地図」
今年に入ってからエネルギーセクターのパフォーマンスがよくて、2015年以降の暗黒期から空気一変という感じでした。
その暗黒期でもぼちぼちエネルギー関連の本は読んでいて、バーツラフ・シュミルの「エネルギーの人類史」は上下巻とボリュームがあったものの面白かったです。
中東情勢の雲行きが怪しい中、エネルギーの人類史を読んだ - 関東在住福岡人のまったり投資日記
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ウクライナで戦争が始まって以来、否が応でもエネルギーを意識する状況になりつつありますが(ただでさえ先週から梅雨明けっぽい天気になっている)、そんな中「新しい世界の資源地図」を読みました。
著者のダニエル・ヤーギンは米国で最も影響力のあるエネルギー問題の専門家といわれてる人で、世界的な情報調査会社、IHSマークイットの副会長を勤めている人物です。
これが書かれたのは一昨年から去年だと思われるのですが、ロシアがウクライナに侵攻を始める前にもかかわらず、本書の内容はこの事態を予測していたかのような内容になってて興味深かったです。
エネルギーと地政学リスクは密接に関係している
この本の内容の中心は2000年代頃からの20年間の、エネルギーを取り巻く情勢を、概観したものになります。
章立てで見ると以下の内容です。
- 米シェールオイル・ガス
- ロシアの資源
- 中国の覇権、一帯一路
- 中東の石油、ガス
- 自動車
- 気候変動
中東の石油、ガスに関しては歴史の流れがわかりやすくて、なんであんな状態なのかというのは、反イスラエルの意見しか目立たない日本の中東研究者ばかりなので、中東問題を理解する上でもこの本読むべきだと思います。
そして去年あたりからなんで「地政学」が話題になっているかもよくわかりました。
結局ウクライナ問題に関してもロシアがジャイアンなわけですが、資源がロシアにとっていかに重要であるか、ロシアの資源にドイツ等欧州が依存していたか、ソ連崩壊以来、ガスパイプラインの問題を主としてロシアとウクライナの関係がこじれ続けていたという経緯を見れば、ウクライナがNATOに加入したいというのも必然でしょう。
同時にヤーギンに反トランプ的な考えが見られながらも、以前からトランプがロシアドイツ間のガスパイプライン、ノルドストリーム2に「ドイツはロシアに支配される、何のためのNATOだ」と強硬に反発し制裁を発動したのに対して、ドイツ他EUは「治外法権」とこれに怒ったのを見ると、シュレーダー→メルケル政権のドイツは大きな責任があると思いました(メルケル翼賛してた人たちは五輪反対派同様いずこへ?)。
またシェール関連で石油価格は、サウジ、ロシア、アメリカの3か国で実質決まる状態になっているのが明らかで、これを見るとアメリカ強いなとなると同時に中東が不安定になるのもわかります。
コロナで石油価格が下落した折に、サウジ、ロシアだけで減産に合意できなかったのに、あまりの下落はアメリカの石油産業に打撃であるという判断から、積極的に仲介に乗り出しアメリカの「調停」に助けられたというのも興味深い内容でした。
先週から梅雨明けか?というくらい暑い日が続いていますが、日本は原発の再稼働しないとまずいエネルギー状況ですし、台湾だけで無く本の中で出てきた南沙諸島の問題も詳細に書かれています。
参議院選挙が近づいてますが、正直エネルギー政策は非常に重要だと読んでいて強く思いましたし、太陽光や風力に幻想を抱いている人やESG投資煽ってる環境団体などは現実を少しは見た方がいいと思います。
ともあれ現代世界史の理解を深める上でも有意義な一冊だと考えます。


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