我々が直面している課題は、「More Energy Less Carbon」。岩瀬昇著「武器としてのエネルギー地政学」
エネルギー関連の本をこのタイミングで2冊読みました。
一冊は宇佐美典也氏の「電力危機 私たちはいつまで高い電気代を払い続けるのか?」で、これは日本の電力の歴史から現状、先々の展望が書かれた一冊になります。
ただ、エネルギー関連にしてはガスにしろ石油にしろ地政学的な視野は必要かと思いまして、岩瀬昇氏の「武器としてのエネルギー地政学」を読みました。
著者の岩瀬氏は三井物産に入社後、三井石油開発に出向し、世界各地で海外勤務を行いながら、エネルギー関連業務に携わってきたエネルギー分野のエキスパートで著書多数の人物です。
エネルギー政策について欧州/米国/中東/日本での違いがよくまとめられており、世界のエネルギー事情を俯瞰的に見るのにいい一冊だと思います。
我々が直面している課題は、「More Energy Less Carbon」
アメリカ、欧州、中国、ロシア、中東、日本に関する状況がわかりやすく解説されてました。
で、興味持った点をピックアップすると以下でしょうか。
- 石油は「欠乏の時代」から「余剰の時代」に突入した
- 戦争前からガス危機に陥っていたヨーロッパの誤算
- いまだに世界的な「市場」がない天然ガス
- 原油高よりはるかに深刻な天然ガスの高騰
- アメリカの石油可採年数が常に10年である理由
- 指導者の「右向け」にまるで従わないアメリカの企業
- 日本が忘れてはならない「北樺太石油の教訓」
- 安価なロシア産ガスに頼りすぎたEU官僚の大失策
- 国よりも目の前の利益を最重視する中国人
- 中国はすでに「プーチンの戦争」後を見据えている
- 脱石油を目指す「ビジョン2030」の落とし穴
- エネルギーが生み出す人類の「幸せ」と「不幸せ」
- トタルと石油公団を分けた”1億総無責任”
- 日本がみせたしたたかなエネルギー戦略
石油は「余剰の時代」に突入したというのは三井物産時代から携わってるだけに説得力があるなと。
「平時はコモディティ、一朝事が起こると戦略物資、それが石油です」という言葉は重いです。
また、天然ガスと石油の市場の違いの説明は興味深い内容でしたね。
あとは6章のCOPやパリ協定、京都議定書に関しては、リアリズムに基づいたもっともな指摘で、各国の事情に応じたエネルギーベストミックスを実現化し、それぞれエネルギー効率を高めていくのがエネルギー安全保障を考える上で王道というのはその通りと考えます。
直面している課題は、「More Energy Less Carbon」という両立が難しいわけで、これを特定の国に押し付けたり、短期で水に中長期で見るというのが必要なんじゃないかとあらためて思いました。
最後の7章に日本のエネルギー政策への5+1の提言がされてました。
その5つとは、「国民の啓蒙」「国際貿易推進」「技術革新」「備蓄」「国家百年の計に基づくエネルギー政策」そして、+1は昨年の石油備蓄の放出のように「したたかに振舞う」こと。
なかなか難しいことになりますが、感情にさらされずしたたかに振舞うことこそいまの日本に必須のことかなと。
ともあれ専門知識の無い読み手にも届くよう配慮された文章で、エネルギー関連の本として読んでおいて損はないと思います。


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