恒川惠市著「新興国は世界を変えるか」
29ヵ国を新興国と特定し、経済成長、政治体制、軍事行動を分析した「新興国は世界を変えるか」を読みました。
基本的な内容は「新興国自身はどう発展するか」という点で、経済発展や所得関連で分類していて、今後の新興国を考える上で色々と示唆に富む内容だと感じました。
力をつけた新興国は世界にどのような影響を与えるか?
まず取り上げた29か国の分類は以下の通り。
- 高所得国→シンガポール、韓国、台湾、アルゼンチン、チリ、ポーランド、サウジアラビア
- 上位中所得国→マレーシア、中国、タイ、ブラジル、メキシコ、コロンビア、ペルー、カザフスタン、ロシア、トルコ、イラン、イラク、アルジェリア、南アフリカ
- 下位中所得国→インドネシア、フィリピン、インド、パキスタン、バングラデシュ、ベトナム、エジプト、ナイジェリア
経済発展についても「一次産品輸出が多い」「国内市場が大きい」「技術生産力が高い」の3つに分類していて、東南アジア諸国がもっぱら技術生産力に入ってるのは興味深かったです。
一方、「中所得国の罠」としてブラジルと南アフリカが挙げられていて、これらの国の一人当たりGDPをアメリカとの比率で比較すると、第二次大戦前の値前後であるという停滞ぶりで、フィリピン、インドネシア、マレーシアなど同じ状況に陥りかねないという指摘は覚えておきたいところ。
中所得国の罠に陥らなかった国(韓国、台湾、中国、シンガポール)の特徴としては、15歳の学習到達度やR&D支出が高い水準らしいので、新興国に投資するうえで一つの指標値になるかと思いました(この内3か国が猛烈な少子化なのは関連性が気になりますけど)。
加えて政治用件で以下の指摘はなるほどなと思うところがありました。
- 新興国の特徴として、政府の所得平等化を民主主義の本質的要件と考える人が多い。民主政府が所得平等化に失敗した場合に、軍部の台頭などを招きうる要因となる。
- 比較分析からは、腐敗度や行政の質(良好な官僚制)は、低所得から中所得に至るところではあまり障害にならないが、高所得になるレベルまで経済成長するにはそうした点が重要になる。
- インドと南アフリカは、初期のカリスマが自己利益でなく法の支配確立のために自らへの支持を利用したことと、地域や軍部内部での民族党の多様性の高さが団結した強権行使の障壁となることとが寄与し、様々な障害の下でも民主主義は維持されてきた。
最終章で日本は新興国とどう付き合うかまで網羅されていますので、新興国に興味のある方は読んでおいて損はない一冊だと思いました。


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