現状のインフレはやがて高確率で長期停滞の世界に戻る?オリヴィエ・ブランシャール著「21世紀の財政政策 低金利・高債務下の正しい経済戦略」
前から気になっていた、オリヴィエ・ブランシャール著「21世紀の財政政策 低金利・高債務下の正しい経済戦略」を読みました。
著者のオリヴィエ・ブランシャールはマサチューセッツ工科大学(MIT)ロバート・ソロー経済学名誉教授で、ハーバード大学やMITで教職を務めた後、2008年から15年まで国際通貨基金(IMF)のチーフエコノミストだった人物です。
個人的にインフレだけど今後どうなるかというのは気になっていて、最近は財政政策の本とかも読んでいて、この本には興味があったんですよね。
実質安全金利r(以下「実質安全金利」は「実質の長期国債利回り」、「中立金利」は完全雇用と整合的なその水準を指す)と実質経済成長率gについてr-g<0(r
現状のインフレはやがて高確率で長期停滞の世界に戻る?
本の内容をまとめると以下の通り。
- 過去30年か、先進国は巨大な貯蓄が低迷するとうしを 追い求める状況にあり、安全資産へのシフトも存在している。
- 上記理由から生産を潜在水準にイジするために必要な安全金利である中立金利は着実に低下して、需要の低迷の結果として「長期停滞」になった。
- 中立金利は低下し、経済成長率よりも低くなり、実行下限制約にも直面している。
- 中立金利が低下し、経済成長率よりも低くなると、債務の財政面のコストが低下し、重要なことに債務の厚生面のコストも低下した。
- 中立金利が実効下限制約によって最低限の金利水準に近いか、それ以下になったので、金融政策は余地を大幅に失い、マクロ経済の安定化に対する財政政策の活用のベネフィットが大きくなっている。
- 断言できないが、民間需要の低迷と安全資産への強力な需要は当面の間続くだろう。
- 2021年のアメリカの財政刺激策などで利上げを余儀なくされたので、しばらくは金利が上昇する可能性があるが、過去30年間着実に実質金利が低下してきた根本的な要因は依然として存在するので、持続的な低金利に戻る可能性が高いことが示唆される。
- 正しい財政政策は、民間需要の強さに応じてそれぞれの総体的なウェートを変化させる2つのアプローチの組み合わせになる。民間需要が強い場合は、財政政策は純粋財政減速を採るが、民間需要が弱いほど、機能的財政原則とマクロ経済の安定化に重きを置くべきだ。
- 中立金利が少なくとも実行下限制約を妥当な幅で上回り、金融政策が生産をイジするのに十分な余地を持てるように財政政策を用いるべきだ。
- 当面、先進国では債務の持続可能性の深刻なリスクはない(リスクが賞実ことはありうる)。
- 民間需要が非常に強力になり、中立金利が大幅に上昇すれば債務の返済が増加するが、民間需要が強力であり金融政策の余地が拡大すれば、生産に青く影響を与えずに財政再建を行うこともできるだろう。
- 他方、民間需要がさらに低迷すれば、生産を潜在水準に維持するために政府は大幅な財政赤字を計上し、低金利にもかかわらず債務は上昇を続けるかもしれない。そうなれば急性の長期停滞に対応するための他の方法を考えなければならない。
また日本に対しては、高水準の債務比率には注意すべきであるものの、超低金利を背景にした近年の金融・財政政策に対してブランシャールは一応の成功だと評価しています。
内容的に「プライマリーバランスなんて重要ではない、政府はいくらでも借金出来るのだ」という結論に飛びつきそうなMMT論者がいそうですけど、そこまでは言ってないことも重要だと思います。
まぁ、信じちゃう人は反ワクチンやら反原発なカルトになるんでしょうけど。
この本が、日本経済新聞出版から出て、日本経済新聞の書評に出てきたのは驚きですが、財政政策のマクロ経済安定化の役割に関する専門家の認識は明らかに財政政策の有効性にポジティブになってる結果がこの本に載ってるので、論調の変化の空気は日経も感じてるのかもしれません。
この本は訳者後書きも結構よくて必読かと。
1930年代のケインズ政策、スタグフレーション後の1970年代以降の金融政策や新自由主義のように、現在の機器はマクロ経済政策の新時代に突入する局面にあるというのは中々興味深い指摘でした。
日本に関してもブランシャールの考えを元に「危機の可能性をなくすほどの安全な水準まで債務をすぐに低下させることができない以上、債務と適切に付き合っていく必要がある」というのは実情に即していると思いました。
低成長・低金利・高債務はもはや日本だけのものではなく、欧米を中心とした先進国にも当てはまりつつある状況において、マクロ経済政策の再検討が必要な中、新たなスタンダードとなりうる人の考えがまとまってるので、投資にも役立つと思います。


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